BIOTOP PEOPLE -EMI FUNAYAMA-「FETICO」Designer
2023.09.28
フェティッシュに、センシュアルに、女性の体の美しさを際立たせるブランド「FETICO」(フェティコ)。
その世界観は、クチュールやヴィンテージを愛するファッション好きからも 熱く支持されている。
強くてしなやかな現代の女性像を打ち出しているデザイナーの舟山瑛美さんに、
「FETICO」の服が生まれる背景や、これから目指すことなどを聞いた。
迫村 BIOTOPでは2シーズン前から「FETICO」の取り扱いをさせていただいています。「FETICO」といえばファッション好きな方々から注目のブランドですが、舟山さんはどんなきっかけでファッションが好きになったんですか?
舟山 5歳上の姉が先にファッションに目覚め、それを追いかけるようにマネし始めて、小学校高学年になる頃にはファッションが大好きになっていました。ファッション雑誌を買ったり、お年玉を握りしめて姉と一緒に原宿に行ったりしていましたね。お誕生日プレゼントも洋服をもらっていました。
迫村 男性だとリーバイスとか、スポーツブランドのスニーカーが入り口だったりしますが、女性はどのあたりから入るんですか?
舟山 私の場合は、当時人気だった「ベティーズブルー」とか「スーパーラヴァーズ」に憧れつつ、高くて買えないのでそれっぽい服を探して買っていましたね。モデルのあんじさんやJUDY & MARYのYUKIさんなどがファッションアイコンでした。
週1回は休みを取るようにしているという舟山さん。「休みの日は、頭がすっきりするので運動をして、あとは買い物に行ったりします。ヴィンテージショップを回ることが多いですね」
迫村 いつ頃からファッションの道に進もうと思っていたんですか?
舟山 中学時代にすでに自分がファッションにしか興味ないことに気づきました。勉強も嫌いではなかったけれど、それより図工とか美術のほうが好き。極端な性格で好きなことしかしないので、その頃には服飾系の学校に行こうと決めていました。それで高校はバンタンデザイン研究所の高等部に進み、茨城から東京まで、毎日往復3時間かけて通っていました。
迫村 高校卒業後に留学したんですか??
舟山 はい、親を説得してロンドンに。高校時代に文化服装学院の学生や慶應のファッションサークルの学生と親しくなって一緒にファッションショーを企画しているうちに海外でも学びたくなり、ロンドンでファッションを勉強してから帰国後エスモードジャポンに入りました。
迫村 学生の頃に将来作りたいと思い描いていた服のイメージと、現在の「FETICO」はリンクしているんですか?
舟山 イメージしていたものとすごく近いですね。私がブランドを始めたとき、「FETICO」という名前を聞いて、昔から知っている人たちは皆、とても感慨深かったようです。学生時代からフェティッシュなファッションに興味があり、当時はもちろん売ることなど考えずクリエイションだけで作っていたので、今よりも攻めていましたね(笑)。でも昔も今も、体をきれいに見せるとかセンシュアルであるといった、根底にあるものは変わっていないです。
BIOTOPでの取り扱いは3シーズン目。「今までにないタイプの服だから、お客様の反応が楽しみ」(迫村)
迫村 影響を受けたデザイナーとかいますか?
舟山 ファッションに興味を持ち始めた頃にとても刺激を受けた「ヴィヴィアン・ウエストウッド」や「アレキサンダー・マックイーン」、「アライア」、ニコラ・ジェスキエールの「バレンシアガ」などは、いざ服を作り始めたときにすごく影響を受けていたということを改めて感じました。とにかくリラックスした服というより緊張感にある服が好きですね。
迫村 ご自身もそういうスタイルだったんですか?
舟山 そうですね……、常に厚底ヒールでかなり気合いを入れていましたね(笑)。“ヴィヴィ子”(全身ヴィヴィアン・ウエストウッドを着た女性)に憧れていた世代なので。
迫村 作っている服を拝見していると、たしかにマックイーンとかのクチュール感や、ヴィンテージのドレスのような匂いを感じますが、デザインのインスピレーションはどんなところから得るのでしょうか?
舟山 おっしゃる通りヴィンテージは大好きで、ウエストをコルセットで縛り上げている服とか、体をデフォルメするようなオーバーな袖とか、クラシカルなものにインスパイアされます。でもそれをそのままマネしても意味がないので、着たときの肌の見え方の面白いバランスを探すとか、何かユニークさを足して新鮮に見えるようにしています。
2023-24年秋冬コレクションより。「ベースにある考え方は変わらないのですが、1920年代のキャバレーとかにいた個性的なミューズをインスピレーションにして、いつもより少しクラシカルなムードにしてみました」(舟山さん)
迫村 最近は肌を見せる服は普通になってきましたが、昔からそういった見せ方を追求していたんですね。ブランドを始めたとき、センシュアルでボディコンシャスな服を作ることに、お客さんの反応を気にしたりといった悩みはあったんですか?
舟山 正直、まったくなかったです。私はそもそも女性の体が好きで、グラマーでもスキニーでもそれぞれに美しいと思っているので、それを覆い隠すような服には興味がないんです。それよりも、体をどう美しく見せるかということにフォーカスして服を作りたいと思ったので、自分はこういう服が欲しいけれど、皆はどう? という感じで、反応を気にしたりせずに始めました。最初は15型くらいの小さなコレクションでしたが、感度の高い人たちからこういうのが欲しかったというフィードバックをいただき、自信につながりましたね。この路線で行こう、と。
迫村 この間、大阪のBIOTOPで「FETICO」のポップアップを開催したとき、全身「FETICO」を着た方が何人もいらして、やはり“フェティ子”はたくさん存在するんだなと感じました。今までにないタイプの服だから一度着るとリピートしそう。黒い服が多いですが、ブランドのキーカラーなんですか?
舟山 そうですね。自分自身のワードローブも黒が多いし、等身大という感じですね。黒ってニュートラルな分、着る人の個性が際立つし、アジア人だと肌とのコントラストが一番強く出ると思うんです。シーズンによって別の色を使うときもあるのですが、あくまでも黒いワードローブが主体の人のための差し色という考え方です。
女性の体を美しく見せるシルエットに加え、国内生産の素材・縫製のクオリティもファッション好きから支持が高い理由。
迫村 今年の春に初めてパリで展示会をされましたが、どんな反応でした?
舟山 “東京ファッションアワード”をいただき、2年間はサポートしていただけるので今年9月にも行く予定です。パリでは初めて東京で展示会を開いたときのことを思い出しましたね。ふーん、こういうブランドがあるんだー、という様子見な感じ(笑)。でもしっかり見てフィッティングしてくださる方ももちろんいて、数件お取り引きが決まりました。どこで作っているかとかよく聞かれたのですが、日本国内の素材を使って日本の職人が作っていると答えると、それを一つの魅力ととらえてくださったようです。
迫村 最初はどこもバジェットを用意していないので様子見かもしれないですが、次からはもっと反応がありそうですね。ところで「FETICO」の服はフォルムとかカットワークがすごくきれいですが、2Dを3Dに起こすのが難しそう。パタンナーさんたちにはどうやって伝えているんですか?
舟山 いつも決まった方々にお願いしているのですが、ブランドのカラーや私の好みをしっかり認識していて、私が起こしたドローイングをどう立体化させたらいいかを理解しているパタンナーさんたちです。それぞれ得意分野が違うので、テーラード系ならこの方、フェミニン系ならこの方と決めています。そこのキャッチボールはとてもうまく行っていて、私が想定したものをちゃんと形にしてくれますね。回数を重ねるごとに精度が上がっている気がします。
迫村 ブランドを始めて3年たちましたが、今後の目標はありますか?
舟山 今までは、やはり売れないとブランドを守れないというプレッシャーもあったので、MD構成ではセールスを考慮していましたが、もっと冒険してもいいかなという気持ちになっています。売れる売れないという視点ではなく、クリエイティブに、ブランドのカラーを強く打ち出しているピースを増やしていきたいなと思っています。
迫村 それは楽しみですね。日本でももっとパーティなどオケージョンが増えれば、「FETICO」の服を着る人も増えると思います。
舟山 ほかにはないような服をどんどん作っていきたいですね。あと「FETICO」のお客様は海外のブランドも合わせて買う方が多いので、遜色ないようなものにしたいです。海外でもちゃんと売れるものを作っていきたい。
休日はヴィンテージショップやブティックを訪ねて服を探す。「趣味といえる趣味があまりないですね。好きなことが仕事になっているので」
迫村 舟山さんにとってBIOTOPってどんなイメージですか?
舟山 スタイリストをしている夫とのデートコースの一つで、リアルにお買い物する場所です。いつも、このラインナップに「FETICO」が入るのは難しそうだなと思って見ていたので、お取引が決まってうれしかったです。最近、うちのブランドのお客様の年齢層や個性も広がってきていて、お洋服好きな大人の層にも響いたらいいなと思っていたので、BIOTOPがそのきっかけになりそうです。
迫村 たしかに今まで編集していたラインナップとは、少し違う匂いがするかもしれないけれど、それがお客様にはすごく新鮮に映るんじゃないかと思っています。うちはブランドをあえて混ぜてレイアウトするので、シンプルな服の中に、「FETICO」が入っていると、メリハリが利いて面白い見え方になりそう。反応が楽しみですね。
舟山瑛美
Emi Funayama
「FETICO」(フェティコ)デザイナー。高校卒業後に渡英、帰国後にエスモードジャポン東京校で学ぶ。コレクションブランドで経験を積み、2020年、自身のブランド「FETICO」を立ち上げる。2022年、「JFW ネクスト ブランド アワード 2023」と「東京ファッションアワード2023」を受賞。
Interview with
BIOTOP ディレクター
迫村 岳